詳細論

事件の全容を、茜の主旨に沿って読み解いていきます。さらにそこから浮かび上がる矛盾について、解釈を加えたいと思います。

 

 

 

 

 

メインターゲットが誰なのかといえば、織作家の家族全員です。

五百子は織作の習わしを強要されないため。

雄之助は遺産のため。

紫は放っといても死ぬんだし。

葵と碧は嫉妬心から。

この五人の死が計画の主軸です。

そして真佐子は、五百子を殺して逮捕される役割だったんじゃないかなと思っています。

 

その五人が死んでいれば、真佐子が死んでようが生きて逮捕されていようが、織作家が無くなることにさしたる影響はないと思います。本編で自殺したのは、あくまで副次的な現象だと思っています。

 

雄之助や紫は病気持ちですから、いつでも殺せます。ラストで五百子は真佐子が殺してくれます。となると問題は葵と碧です。この計画は、すべてこの二人を殺すことのためにあったと私は捉えています。

殺人者候補に選ばれたのが、平野祐吉、杉浦隆夫、それから出門耕作と柴田勇治です。彼らに殺す動機と環境を与え、葵と碧には殺される動機と環境を用意することこそが、この事件のすべてなのです。

 

 

 

 

 

 

 

そうして多くの人が巻き込まれていった。

前島八千代と高橋志摩子は嫉妬心から、

川野弓栄は復讐心から、

山本純子は柴田勇治の復讐心を煽るため、

麻田夕子と是亮は碧の罪を大きくするため、

本田幸三は復讐心と嫉妬心から、

渡辺小夜子は呉美由紀の復讐心を煽るため、

ついでに葵と碧は真佐子の復讐心を煽るであろうことを計算に入れて、

環境作りのために、これだけの死を用意したのです。

 

 

 

 

いくつか説明を加えます。前記に記した殺人者候補の他に、計画を進めていく途中で新たに殺人者に立候補した人物がいます。それが呉美由紀と川島新造です。美由紀には碧を、川新には志摩子か葵を、殺してもらえるかもしれないと茜に目をつけられたのです。

この川新の存在は茜にとって嬉しい誤算といいますか、結構重要視していたと思われます。茜は、葵を殺す計画を立てるのに苦労したでしょう。スキのない女ですから、殺される動機を作ることが困難だったからです。平野を葵の弱みにできたことは最大の幸運だったでしょうが、一人でも葵を殺す動機をもつ者を増やすためにも、川新の存在は有難かったのです。喜市を警察から逃す役割も担ってくれるし、なるべく警察の手に渡るのを遅らせたかったでしょう。だから、八千代の殺害現場にあったサングラスを隠すように茜は平野に指示したのでしょう。

 

 

 

柴田勇治も、葵殺害のために用意された殺人者候補です。最初は碧用だったのでしょう。しかし葵が平野を庇ったことを知った茜は、幸運とばかりに葵用に計画を切り替えたのです。山本純子を平野に殺させることで、復讐の刃を葵に向けさせたかったのです。

 

 

 

川野弓栄については、これは想像が多分に混じるのですが、茜にとっては八千代や志摩子と同じく嫉妬の対象としたわけではなく、本田幸三と同じく復讐の対象と捉えたのではないかと思っています。といいますのも、雑誌で拝見する限りでは弓栄は水商売をやっているらしく、茜が嫉妬する対象にはなりえないと思うからです。かといって、茜と弓栄の接点はR.A.A.だけ。復讐の対象と捉えるには条件が不足しています。

 

私は、石田宅で茜を”この体”にした張本人は、川野弓栄だったのではないかと思っています。三人で石田宅で生活を始めてから、志摩子はすぐに二人とは別れました。ここに、弓栄の出身が石田宅のある茂浦であるという事実から推測し、R.A.A.の指導係をしていた弓栄が、解散後、偶然石田宅を訪れてことに至ったと考えるのは突飛な想像ではないと思うのです。前項で示した、茜の神性を侵すようなセリフを吐いたのも弓栄だったとすれば、茜は弓栄に相当な復讐心を抱いていたのではないでしょうか。

もっといえば、茜は本編で弓栄を事件に巻き込む際に、弓栄の行動を的確に予測していたことも、先述した事実を裏付けるものなのではないでしょうか。弓栄と杉浦隆夫を引き会わせた茜の目的は、杉浦を弓栄の下僕にして、売春の手伝いをさせたかったからだと思われます。弓栄がそのような行動をとると、茜がなぜ理解っていたのかといえば、実体験があるからだと考えられるのではないでしょうか。石田宅でさせられた弓栄の強権ぷりを経験していたからこそ、杉浦に対してもそのような行動を起こすかもしれないと予測できたのだ、といえるのではないでしょうか。

 

茜が喜市に教えた嘘、三人の娼婦が房江に売春を強要していたという嘘は、ある意味真実だった。強要させられていた相手は、房江ではなく茜だったということなのではと思うのです。

 

 

 

美由紀、小夜子、夕子の三人は、父親に対するの復讐心とその子供に対する嫉妬心という意味も含まれていたようにも思います。

 

「麻田代議士も、渡辺氏もあなたのお父様ではなかった。本当のお父様に就いて――あなたは五百子刀自からお聞きになったのでしょう?」

 

京極堂のセリフです。この意味はおそらく、茜が生まれる頃に五百子が真佐子に宛てがった男はこの三人だ、みたいなことを茜が聞いたという意味なのではないでしょうか。茜の本当の父親は、彼女ら三人の父の内のどれか。あなた方の奸計がなければ私のような者が生まれることもなかったのに、当のあなた方は、子供も含めて随分幸せそうじゃないの。子供を私と同じ目に遭わせてあげましょうか?みたいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、高橋志摩子についてです。

私は、茜は彼女だけは殺すつもりがなかったと確信しています。ここが茜の勘違いの一つ目です。 

 

「最後は高橋志摩子さん。兄さんは『明るい谷間』と想定したようだけど、どうやら志摩子さんは吉原の遊郭には居なかったみたいね」

「まあ娼婦が公の場に出る機会はそうないからな。それくらいしかないのじゃないかと思っただけだ。それで『近代婦人』だったのか?」

「そう。これよ」

 

志摩子が載った雑誌は『近代婦人』でした。これはごく普通の女性も載る雑誌です。もし吉原女児保険組合が発刊する『明るい谷間』に載っていたなら、事態はこうはならなかったでしょう。

茜は、雑誌からは志摩子がまだ娼婦であることに気づかなかったのです。将校のオンリーになって、それから悠々自適に暮らしているものと思ってしまったのです。だから嫉妬した。殺そうと思った。しかし喜市から、志摩子の居場所を聞き出した際に、そうではなかったと知ってしまったのです。

 

「もうひとりの女の――居所は」

「判っているよ。何度か会った。間違いない。あの女とは違って、今でもまだ娼婦だったから――」

「まだ――娼婦を」

 

「止めましょう」

「これ以上はあなたのためになりません。もういいでしょう」

 

勘違いだと気づいてしまった。彼女は、過去を忘れたふりして偽りの幸せを享受している八千代とはちがっていた。勘違いも甚だしい。彼女はまだあの地獄の中にいるのだ。

だから彼女には、もう危害を加えることをやめようと思ったのです。喜市に行動規制をかけ、平野も仕向けなかったのです。そして。

 

 

この時点で用済みになった喜市は、茜にとって最も邪魔な存在です。絶対に口封じが必要な位置にいます。だから”喜市に”平野を仕向けたのです。

喜市と石田宅で会ってから茜は、告解室にいる平野に、石田宅に行くよう書簡で指示を出したのです。おそらく石田宅に白粉の匂いを残して――。

 

何日か後、織作邸に木場修がやってきました。話しているうちに、木場修は石田宅に行くべきだと茜にマインドコントロールを受けます。おそらくそこで喜市の死体を見つけるだろう。そこで次のステージに移行することになるのだと。

が、ここでとんでもないことが起こってしまったのです。川新が志摩子と何処かへ消えたのです。木場修のその報告の電話を盗み聞きしていた茜は、川新が石田宅に行く気だと気づきました。そこには平野がいる。志摩子が殺される。

 

茜は自分の勘違いで巻き込んでしまった彼女を、どうしても助けたかった。だからキャラを崩してでも、機転を利かせて木場修たちを現場に向かわせたのです。止めてくれ、と。

しかしこの行為は無為に終わりました。否、京極堂曰く逆効果だったのかもしれません。

 

「あなたは、あなたが発動した計画がどのような理に則って動くのか、全く理解していなかったのですね――」

「――だからあなたは止められなかったんだ」

「と――める?」

 

この計画には主従がありません。命令された側が命令主体となって、自動で事件を再産出していくのです。それは茜とて例外ではなかったのです。

志摩子誘拐事件は、もはや茜が主体の計画ではありません。その客体は、知り得る情報が多ければ多いほど、軌道修正できる立ち位置にはもういないのです。それを茜は理解していなかった。

もしかしたら、川新だけなら平野を止めていたかもしれない。しかし茜の余計な機転で川新は木場修が止めてしまった。結果、平野はフリーとなり…。

 

この事件は、関わる人間が多ければ多いほど蜘蛛にとって好都合。京極堂はそう思っていたが、茜はその真の意味を理解していなかったのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

志摩子は死んだ。ところで喜市はどうなったのでしょう。京極堂は、自分が確保していると云う。喜市は、平野の凶行からどう生き延びたのか。

 

私は、喜市を確保しているという京極堂のセリフは嘘だと思うのです。そもそも、京極堂が確保しているという状況が不自然すぎます。なぜ警察に渡さないのでしょう。彼の心理からは、およそ考えられない行為です。犯人隠避罪は避けられないし、殺人幇助や殺人教唆だって警察からは疑われているのですよ。警察の手に渡っているなら茜が知らないのも不自然ですし、それでは「僕が確保している」というセリフにはならないでしょう。

 

おそらく、茜にカマをかけたんじゃないでしょうか。茜が、喜市の死を100%ではないと思っているであろうことを逆手に取ろうと思っただけなのではないでしょうか。

 

では喜市は死んだのかというと、それも不自然なところがあります。平野が石田宅にずっと居たことです。彼の今までの行動原理からすると、興奮して殺してしまったらすぐ逃げ出すと思うのです。なぜ石田宅に留まったのでしょう。やはりそこには喜市がいなかったから、指示通りずっとそこにいたと考えるのが自然です。

 

「あなたの所為ではないのです。だから、もう、身を引いて、何処か遠くへ逃げて」

 

私は、喜市に言った茜のこのセリフに、彼女の二面性を見ます。喜市は計画上では、茜が関わりすぎているためどうしても死んでもらいたい存在です。しかし彼女は喜市を知りすぎてしまった。房江という、自分と同じような不幸な過去を持つ女の子供で、しかも母のためにここまでする優しい性格です。

彼女は喜市に、決して得られぬ自分の子供の姿を重ねたんじゃないかと思うのです。だから殺すことを躊躇してしまった。

そこで、蜘蛛として平野を仕向けつつ、茜として喜市に逃げろと言ったのではないでしょうか。喜市がどうするのかは未知数。小屋に居たままならそれまで。しかし逃げたなら、自分の犯罪が露見することも覚悟した。

 

結果はおそらく、喜市は逃げたのです。人知れず自殺したのかもしれません。兎も角行方不明。それが答えなのではないでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最後に記したいのが、葵についてです。ここにも彼女の勘違いがありました。それは、葵が半陰陽だったということです。

 

茜が葵に向けた感情は嫉妬心。彼女が”子を宿せる体”なのに、それを放棄していることへの怒り。それがまったくの的外れだったのです。彼女も子を宿せないことに苦しんでいた。私と同じ、あるいは私なんかよりもっと辛い立場だった――。

 

気づくのが遅すぎました。もうすでに耕作という刺客を用意してしまっていました。止める間もなく、彼女は茜の目の前で事切れてしまったのです。

 

多くのものを失った。京極堂のセリフ通り、茜は殺すつもりのない人まで多く失ってしまったのです。特に葵に関しては後悔したでしょう。

京極堂は、最後にそこを突いたのです。柴田勇治との結婚は諦めるべきなんじゃないですかと。彼女の理でいけば、子を宿せない以上、彼に亡くなってもらった上で一生未亡人として会社だけ受け継ぐという、彼女が望んだ最上の道に進むしかないからです。そのためにまた無関心の人を巻き込むのか。潰れますよ、と。

 

 

葵の分まで生きる。茜は、彼女の死に報いる生き方をしなければならないでしょうね。

 

「私はもう一生泣きませぬ。泣いては己が立ち行かぬ。こうなった以上はもう一度、己の居場所を探します。負けません。負けてなるものですか。貴方よりも誰よりも、強く生きてみせましょう。石長比売の裔として、私は悲しくとも辛くとも、笑っていなければならぬのでしょう。

それが――」

「それが――絡新婦の理ですもの」

 

 

 

 

 

 

 

 

(27’03’27 追記)

塗仏の宴を読みました。茜の登場するセクション、親戚の羽田隆三なる人物とのやりとりで、私は茜の内情についておそらくの確信を得ました。

 

「――儂なんぞ、あんたみたいなええ女やったら、ひとりでええねん。あんたに責められたならな、三千人分の精気使い果たしてしまうわ」

老人は更に粘性の視線を寄越す。鬱陶しかった。

「お試しになられますか――」

一度――云ってみたかった。

老人は皺だらけの眼を剥いた。

「ま、それはそれ――やな」

 

羽田隆三は、茜にしつこく愛人になれと迫ってきていました。それを一蹴した一言。羽田グループの頂点で、しかも何人もの囲い女がいる豪傑なる人物をビビらせて黙らせた対応。「お試しになられますか――」の一言に込められていた、茜が発した空気とは、殺気であったと私は感じました。

 

――抱けるものなら抱いてごらんなさい。

――どうなっても知りませんよ。

 

本気で云ったつもりはなかったのでしょうが、しかしこのような感情が言葉に載ってしまっていたのではないでしょうか。それを敏感に感じ取ったのは、さすが百戦錬磨の羽田隆三。本能で、彼女に手を付けるのは危険だと判断したのです。

 

これはつまり、茜が持つ病気とは、死に至る病であるということ。そして性交渉により相手に感染るものであるということ。

 

発症すればほぼ死が確定する病。

…アレしかないでしょうね。

 

 

 

今は発症を抑える治療法があるようですが、当時は不治の病ですからね。これに茜は感染してしまったのでしょう。茜が医学方面の勉学に力を注いでいたのも、これ故だったんですね。自身の病の治療法を探し求めていたのです。これが茜の人生のすべてを狂わせてしまった根本原因。生き方を軌道修正せざるをえなかった実情だったのだと、私は思うに至りました。

 

 

 

 

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コメント: 16
  • #1

    ふう (日曜日, 27 3月 2016 00:02)

    京極スレにリンク貼ってあったので飛んできました。
    とても興味深い論考ですが、どうやら時期的にHIV(たぶんHIVを示唆されてると思うのですが、勘違いならごめんなさい)ではありえないみたいです。
    まあでも、その他の当時確認されていた性感染症の中にも出産にトラブルが生じ且つ命に係わるものもあるでしょうし特に矛盾はしないと思います。
    解釈は大変感服しました。今度念頭に置いて再読してみたいと思います。

  • #2

    gultonhreabjencehwev (日曜日, 27 3月 2016 20:51)

    コメントありがとうございます!

    時期的にというのは、この頃の発症例がない、まだ存在してないってことですか?もしそうなら、なんて勉強不足!こんなところで無教養をさらしちったにぁ!恥ずかしー!あとで調べよう…。ご指摘ありがとうです♡
    よかったぁ言葉濁しといて。また道化になるとこだった…。十分道化だけど

  • #3

    名無し (土曜日, 04 2月 2017 12:08)

    最近読了いたしまして、考察楽しく読ませていただきました。

    一点気になったのですが『八千代の殺害現場にあったサングラスを隠すように茜は平野に指示した』は間違いでしょう。
    サングラスを忘れたのは偶然ですし、それを見越して指示を出しているというのはさすがに無いでしょう。殺害の現場に茜がいたなら別ですが。

    話の大筋とは関係ない指摘でお気を悪くされたら申し訳ない。

  • #4

    gultonhreabjencehwev (日曜日, 05 2月 2017 18:49)

    コメントありがとうございます!

    言われてみればそうですよね。だいぶ前に書いたものだから、わたしがなんで当時そう思ったのか忘れちゃいました~。
    ご指摘ありがとうです!また読み返してみようかなあ。

  • #5

    Antithesis (月曜日, 22 5月 2017)

    >前島八千代と高橋志摩子は嫉妬心から、川野弓栄は復讐心から

    単に売春婦をしていた過去を知られないためだと思いますよ。

    >山本純子は柴田勇治の復讐心を煽るため

    単に柴田グループ会長夫人の座の為だと思いますよ。
    柴田勇治を殺人者にすると会長夫人の座も消えますから。

    茜の動機に関しては色々言われていますが、自分を縛る織作家の古い因習を断ち切るためには家族全員を殺すしかない。(同時に近親婚や乱交の痕跡を消す)本人もセックス禁止の従妹婚を強いられていますし、織作家の秘密が暴露されれば社会的地位も失ってしまいますから。

    同時に過去にレイプや売春に関わった自身の弱みを消した上で柴田グループ会長夫人になるまでが計画だったのだと思う。

  • #6

    gultonhreabjencehwev (土曜日, 27 5月 2017 22:54)

    以下長文です…。ホントすいません…。
    めんどかったら無視してください!

    コメントありがとうございます!
    冒頭で示したとおり、Antithesis さんのような考え方で納得されている方もいるだろうことは承知をしております。
    私はそうは思わなかったというだけですので、共感いただけなかったのであれば、私の解釈は全部まちがっていると思っていてもらって全然OKです!

    という前提の下で、いただいたご意見のすべてを否定します。
    柴田グループ会長夫人になるまでが計画だったなら、計画続いちゃだめですよね。手に入れたんだから、これ以上の蛮行は無意味を通り越してリスクが増えるだけの愚策です。京極は「この次にあなたを束縛するものを排除することでtopになれるね。さらにまだ続くん?」と言ってましたよ。おかしいですね。会長夫人の座のどこの何が束縛になるのでしょう?その座すら束縛と思うなら、そもそも結婚しなきゃいいですよね?それでも会長夫人になるまでが計画なんですか。ならば、それ、京極に何言われても手放しませんよね。その座を手に入れるためにこれだけの大事にしておいて、獲得物0って、なんのために私はここまでってカンジはしませんか?

    自分を縛る織作家の古い因習を断ち切るためには家族全員を殺すしかないんですか?そんなことないですよね。家出一回できてるじゃないですか。本人もセックス禁止の従妹婚を強いられていませんしね。むしろ追い出そうとしていたんですよ。茜はそれなら自分も一緒についていくとまで言ってますから、この方法でも古い因習から逃げられますよね。そもそも古い因習って何?知らん男を宛がわれることが嫌ならR.A.A.にいた事実との矛盾がすぎますし、逆にしたいんなら離婚するだけで解決です。嫁ぎたいってこと?「入り婿は嫌、嫁にいきたい」を成就させるための計画ってこと?本気ですか?仮に殺すにしても、キツイ縛りから抜け出したいなら、大概自分より上の存在を排除すれば事足ります。葵と碧殺す必要ないですよね。彼女らの存在が、茜の何を縛っているというのですか?

    社会的地位を失うほどの織作家の秘密を暴露を危惧するなら、口を塞がねばならない最重要人物を放置しちゃってますよね。五百子刀自です。半月近く生きていたわけですから、100%警察の取り調べを受けてます。黒幕五百子の動機に大きくかかわる家族構成の内容は警察にとっての事実となり、警察の発表は世間の真実となります。そこに証拠は必要ありません。
    警察は家系の相関関係まではばらさないだろう、と信用してるんですかね。他人を信用できるんですね、茜さんて。

    単に売春婦をしていた過去を知られないために志摩子らを葬ったとするならば、平野は実行者として相応しくないですよね。解剖医のセリフを覚えていますか?彼女らは「たまたま全員死んでいる」のでしたね。死は結果です。でもその計画だと、死は必須でなくてはなりません。彼女らの誰か一人でも生き残った場合のことを想像してみてください。
    私を襲った男は織作碧を殺した。と同じ日に織作家が全滅した。生き残った茜は柴田に嫁ぎ、地位を手にした。おや、織作茜ってよく見たらあの時の…。あれ?これらの事件てつながってる?てゆーか、あの男が襲った人、私知っている人ばっかだし。あの時の人たちやん。なんで織作茜だけ無事なん?許せんわ。
    はい、ばれました。

    私の記事で説明している計画のほうは、少なくとも平野のターゲットは死が必須である必要はありません。傷つけることが主旨であって、できれば死んでくれたら有難いくらいで十分なんです。でもAntithesis さんの考えだと、ターゲットが死んだという偶然の結果の下でしか成り立たない計画になっちゃってますね。

    …と、思ってまーす。

  • #7

    滝口 (日曜日, 17 9月 2017 12:30)

    大変興味深く読ませて頂きました。
    面白く、論理的で物語の理解が深まりました。ありがとうございます。
    こちらの論を見た後にまた要所を読み直しまして、まったく浅はかとは思いますが独り言としてこの場を借りさせて頂きます。

    >八千代の殺害現場にあったサングラス
    これを捨てたのは平野の独断なのでしょうね。

    茜は碧名義の手紙を平野に送り、八千代殺しの現場に誘き出しています。その時点では川島が事件に関与するかどうかも、そしてサングラスを忘れるかどうかも不明なので指示の出しようがない。
    そしてここまで入念にしておいて、前島などの監視網をかいくぐり茜がわざわざ現場に赴いたとは考えにくい。というかそれが成立するなら警察は八千代殺しに平野と川島の存在の両立など悩まないし、平野の葵への証言から見ても彼は茜と会ったことはない。
    茜の関与はここには確実に存在しません。
    ではなぜ平野はわざわざ川島の忘れたサングラスを窓から投げ捨てたのでしょうか。彼は小心者だったゆえに「誰かに冤罪を被せたくない」と思った可能性もありますが……。

    ここは一つ、その証拠品が「サングラス」であった事が原因なのではないかと思います。
    彼はその日、手紙の指示通りに宿へと事前に忍び込んでいた。おそらくは川島の存在も認識した後、忍び込みその衝動性に身を任せ殺害。鍵をかけた後に川島から「外に見張りがいる」と声をかけられる。
    ここから朝まで、彼は数時間部屋の中で逃走の機を伺います。彼はもしかすると、手紙に嵌められたと思ったのかもしれませんね。
    部屋の中には、後に彼を碧殺しの衝動に支配させるほど白粉を感じさせる着物がある。彼は白粉アレルギーを引き起こしたはずだ。そもそもそうでなければ八千代は殺さない。

    つまり彼は、死体と二人きりの部屋で「強烈な視線」をずっと感じていたのです。
    死体の目を貫いたにも関わらず、感じる強烈な視線。彼は部屋の中を見回す。そして見つかる、「サングラス」。
    サングラスは目を覆う物です。その黒いレンズの向こう側に本来あるのは、「眼」だ。
    彼はサングラスに視線の原因を求めたのではないでしょうか。そうして彼は衝動的に、原因を排除しようと窓から投げ捨てる。

    これがサングラスが路地裏に投げ捨てられていた理由、とするとしっくり来るような気がします。

  • #8

    gultonhreabjencehwev (土曜日, 09 12月 2017 21:47)

    滝口さんすいません!まったく気づかなかった~!
    コメントありがとうございます!

    浅はかなんてとんでもない、私がおよばない部分をとてもしっくりくる考えでまとめられていると思います! exellent!

    ああ、でももう見てないだろうなあ。。。
    ほんと申し訳ない。。。
    最近何かと忙しくて。。。(言い訳)

  • #9

    ネームレス (日曜日, 30 9月 2018 12:55)

    大変興味深く読ませて頂きました。
    この絡新婦の理は読後に
    は?
    という感じがした初めての京極小説でした。
    そうなると色々と自分なりの考察と解釈をして
    その次に他の読者はどう考察し、どう解釈したのかが気になります。
    でまあ此方に辿り着いたのですが
    此処では私の脳味噌では到れなかった部分にまで
    解釈がなされており
    ああ、そうか、なるほどなあと
    一つまたスッキリした思いになりました。
    だいたい小説は漫画と違い
    登場人物の心情を細かく描写してくれるので
    書かれて無い事は、読者に感じてほしいとの意志が有るものと
    私は解釈しています。
    だから正解など無いと思ってます。
    しかし、でもやっぱりどうなんだろうか?
    とも考えてしまいます(笑)
    此処の考察は他の所では晴れなかったもやもやがを
    一つ晴らせてくれた思いがしました。

    でもまだ晴れない部分もまだ
    まあ其れもこの絡新婦の理の仕掛なのかも知れませんが(笑)

  • #10

    gultonhreabjencehwev (火曜日, 02 10月 2018 20:51)

    コメントありがとうございます!
    少しでもスッキリに貢献できてよかったです!

    まだモヤっとされている部分は、もう一度初めから再読することで、すっと考えが浮かんできて、案外あっさりと腑に落ちたりするものですよ〜w
    オススメですw

    ちなみにわたしは、自分の推測が全部正しいとは思っていません。
    大筋はだいたい間違っていないとは思うんですけど。
    だからわたしも、再読すればまた違った考えが浮かんでくる可能性も十分あると思ってます!

    ただ、ページ数が。。。
    再読には気合がいるんだよな。。。

  • #11

    ぶたさん (火曜日, 27 11月 2018 17:05)

    過去に書かれた記事なので、コメント見ていただけるか、わからないのですが。

    五百子さんは表向き老衰(毒殺)では
    なかったですか?

    まあ、それはおいといて。
    私はコミックを読んで、詳細が気になって原作文庫を読みました。

    絞殺魔や目潰し魔の事件が交錯し、時系列がわからず、また人々の証言もどこまでが本当か、コミックではわからなかったからです。
    なので、ご意見をお聞きしたいと思ってしまいまして。

    最も疑問だったのは、前島の友禅です。

    友禅は喜市が質から出した。
    茜が喜市と会ったのは雄之助の密葬の夜が最後、その前は11月の末です。
    ということは、本田殺害は雄之助の死後でなくてはならない。

    が呉美由紀の項では、本田事件の後に雄之助は死んでいます。
    本人も記憶が曖昧とはいってますが。
    本田事件の2~3日後?
    小夜子の無事を知る。
    是亮に殴られ、柴田勇治に助けられる
    (君はこの3日間何をしていた!)
    更に2日後 是亮に呼ばれ金を要求される
    (多分1日置いてー理事長に呼ばれた)
    その翌朝、祖父に手紙を出す。
    そしてこの日の未明に雄之助は死んでます。

    茜は前島の友禅を手に入れられません。
    そればかりか、川野、山本を殺害した平野は何も持っていなかった。

    しかし、友禅は何も前島の物で無くても良いのかもしれない。
    鞭も眼鏡も、被害者の物で無くていい。
    碧がそうだと信じればいい。
    事件の記事で呪った被害者がどんな人間か碧が知ったとき、証拠の品に違和感がなければいい。
    山本の眼鏡も同じような物でいい。
    茜は川野、前島を雑誌で見ているから、その人を象徴する品は用意できるでしょう。

    そう思えたのです。
    が、これは破綻した考えでしょうか?

    そしてその友禅でもうひとつ。
    喜市は(水鳥の模様)と口にしたようですが、何故柄を知っていたのでしょうか。

    コミックでは多田マキは風呂敷に包んで質屋に持っていくのです。柄は見えません。

    原作ではそのへんの、詳細は無かったと記憶しています。ただ丸めて持っていたとしても、柄は見えるのかな?と納得できずにいます。
    客を取るとき、目印に着物の柄も指定していなさそうでした。

    大変細かいことなんですが、気になってしまい、絡新婦を読み込まれてる方にお聞きしたかったのです。

    余談ですが、私は喜市は真佐子の子供ではないか?と感じたのですが、それも変な発想でしょうかね…。

  • #12

    gultonhreabjencehwev (木曜日, 29 11月 2018 01:57)

    コアすぎるコメありがとう!!!
    まったく覚えてないので、ホコリかぶってる絡新婦引っ張り出してきて確認するところから始めちゃいましたよ~w
    久々見るとやっぱ面白いですね~絡新婦の理!

    五百子さんは表向き老衰(毒殺)だったと思いますけど、何か疑問に思うところがありましたか?

    友禅は喜市が質から出した。茜が喜市と会ったのは雄之助の密葬の夜が最後、その前は11月の末です。ということは、本田殺害は雄之助の死後でなくてはならない。茜は前島の友禅を手に入れられません。

    だから茜が運んだのではない。

    って、そう思わせたかったってことでいいんじゃないでしょうか。

    いつ喜市に会ったとかは、全部、織作茜の証言ですよ~。

    織作茜の嘘は巧妙です。
    破綻しても、勘違いだったで済ませられる。
    バレても言い訳がきく嘘を、バレても上塗りすることができる。
    頭の回転めっちゃはやいんですよね。

    多分、モノは茜自身が運んでます。
    喜市に会った日は、当然、八千代が死んだ直後。
    茜は、定期的に碧に服を届けに行くという「学園へ行く大義名分」がすでにあります。

    友禅の柄は、どうなんでしょうね。
    着ているところを見たのかもしれないし、質屋は「まだ仕舞ってなかった」って云ってるんですから、見えるところにあったんじゃあないんですか?入れ違いに入ったんだから、多分目の前に見える ”それ” だろうと検討をつけて、”それ” の柄を云ったんじゃないですか?

    喜市は真佐子の子供っていうのは、面白いですね!
    発想っていうのはすべからく変であると思うので、変な発想っていうのは、いい発想力だというのと同じ意味だと思いますよ♪

    で、一応、喜市は房江の子供ってことになってますけど、そういう着眼をするのであれば、大事なのは、
    「だからこのシーンは、本当はこういう意味になる」
    「だからこのセリフは、本当はこういう意図が含まれている」
    っていう、新たな側面の発見だと思います。
    そういうの、なんかありますか?
    あったら教えてください!

    余談ですが、私は織作茜の本当の父親にあんまり興味がないです。
    それは上記が理由です。
    茜の父親が〇〇だとしたら、状況が一気に変わるぞ、っていうものが、多分なんにもないだろうなあって思うからです。
    誰であっても、茜の行動、会話、事実、真実、動機、これらに影響しなさそうなんで。


    あの、上記は全部、私はこう思うってだけですよ!

  • #13

    ぶたさん (木曜日, 29 11月 2018 22:52)

    コメント返信ありがとうございます。

    五百子の死については、この元記事の上の方で、
    「ラストで五百子は真佐子が殺してくれます」
    とあったので、あれ?と思っただけなのです。
    でも、本当にそうなっても構わなかったのかもしれませんね。

    茜の証言が本当とは確かに言えませんよね。
    喜市とも父親の葬儀より前に、会っているのかもしれませんね。
    あと喜市が多田マキの後を着けたって言っておりました。


    その喜市についてですが。

    真佐子が、「嘉右衛門を夫にした時の五百子の気持ちがよくわかる」と言ってたので、真佐子も五百子同様に既に身籠ってたのかな?想像しました。

    雄之助は婿ですから、正妻が妊娠もしてないのに、別の女性が産んだ子を実子にするのは難しい。が、同時期に真佐子も妊娠していれば可能ではとも思ったのです。

    また、最後の憑き物落としの時、「真佐子は川島喜市の名に明らかに反応してる」とありました。
    雄之助が死に追いやった女性の子供、というだけでは無いように感じました。

    冒頭の茜と京極堂のやりとり。
    「僕はあながしたのとおなじように……喜市を操作できる…過去に遡ってそういう環境を造り上げることも可能」という部分、
    (自分には実の母がいて、その人を死に追いやったのは茜さんだ)と喜市が気づくように仕向けられますよ、ってことなのかな?と勘ぐりました。

    とはいえ、こうして書いてみるとかなり
    想像の域をでない発想のようでした。



    茜は性交ができない 
    絡新婦と女郎蜘蛛の使い分け と拝見し
    この物語をだいぶ咀嚼できた気がしました。ありがとうございます。

    茜の父親は誰なんでしょうね。
    でも確かに、誰であっても同じことが起きたのか知れませんね。





  • #14

    gultonhreabjencehwev (金曜日, 28 12月 2018 03:06)

    コメありがとうございます!!m(_ _)m
    リコメ遅れてすみません!!
    ちょっと年末忙しすぎて、脳が思考することを全力で拒否してまして…。
    改めて感想を!
    (もう見てないかもしれんスミマセン。。。)

    五百子についてはご認識のとおりです。
    茜の計略って、過程がどうであれ、最終的には望む結末が導かれるようになっている仕掛けですから、五百子が黒幕だと周りが認識したあとに死んでくれればいいってことだと思ってます。
    真佐子が殺してくれるだろうし、仮にそうならなくても、毒盛ればいいやってカンジじゃないですかね。


    真佐子について、
    いいですね、こういうの大好きですよ!!
    これを前提にざっと見直してみたんですけど、真佐子の反応とか、確かになるほどってところがありますね!

    京極の意趣返しのセリフもさらっと流し読みしちゃってましたけど、真佐子のことを踏まえればより具体的に説明できるという構図は、とても面白いと思いました。

    喜市がどういった経緯で房江の子になったか、などの流れに整合性がとれるかどうかが微妙に感じましたけど、でも深く掘り下げると、見えなかった部分が浮かび上がって面白そうだなっと思いました。

    新たな視点での解釈をありがとうございます!!
    やっぱり傑作ですね~。

  • #15

    ちょっと通りすがり。 (木曜日, 08 8月 2019 12:56)

    結局、「名家の倫理観」vs. 「社会の倫理観」の話になるんじゃない?
    織作家の倫理観の中で生きられる分には、それはそれで完結するわけだからさ。
    つまり、蜘蛛っていう生き物は、交尾したオスを食い殺して繁殖するわけで、旦那を食い殺すわけにはいかないから「交尾しない」ということなんだと思うわ。。。

  • #16

    gultonhreabjencehwev (木曜日, 08 8月 2019 19:57)

    コメントありがとうございます!!

    旦那を食い殺すわけにはいかないと考える茜さんが、旦那を絞め殺すわけにはいくっていうのはどうも……。どうせ殺すんだから食えばいいのに。それのほうがよっぽど「蜘蛛の倫理」「蜘蛛のことわり」に沿ってると思いません?
    ただ、前半の2行にはめっさ共感します!!織作の倫理感の中で完結できなかったんだろうなあ。。。